兄はホタルの出産準備を着々と進めている。
「生まれた〜？」「まだ生まれねぇよ〜」が
ここ数日の兄との挨拶だ。
外回りから帰り、兄部屋内のホタル産室へ。
食欲が無いのか、ご飯がたんまり残っている。
しかし、お菓子類はモリモリ食べる。
取られない様に、壁を向いて・・・。
出産の徴候となる、体温の低下も見られない。
やはり出産は3月1日なのだろうか？
産室内で、ホタルを撫でながら観察していると
お腹の辺りに、ホタルの呼吸とはリズムの違う
不規則な波打ちが見て取れる。
これは「中のチビ達」の動き。
お腹に手の平を静かにあてると
ピクリピクリと小さな手応え。
例えるなら、痙攣の様な手応え。
私はその音が聴きたくなった。
凄く凄く、聴きたくなった。
体内に宿るおチビ達の音を。
時間限定。生まれてしまっては、もう聴けない。
耳を静かにお腹に付け、目を閉じ、音に集中する。
コトコトと、小さなリズムが聞き取れる。
これは「中のおチビ」の心音？
胸の辺りに移動し、ホタルの心音を聴く。
トクントクンと、こちらは大きく力強いリズム。
これは間違いなく、ホタルの心音。
もう一度お腹の辺りに移動し、耳を澄ます。
コトコト、コトコト。
違う場所から、各々のリズム。
複数の小さな鼓動。
直に子犬達の心音を聴き
私は、なんだかやけに感動した。
（ホタル、お母さんだよ！凄い！）
背中を無防備に私に預け、おとなしくしているホタルに
頑張って生むんだぞと声を掛ける。
その後の育児も大変だろう。
だが今はまず、無事出産だ。
追記
嗚呼、そうだ。思い出した。
私のベイベー・ダニーが逝った時
同じ様にダニーの胸に耳をあてたっけ。
温もりの残る躯に、その命を探そうと。
更なる嗚咽を漏らす結果ではあったけれど。
触れて、確かめたくなるのは何故だろうね。
この小さな鼓動達は、温かく、力強い。
希望の鼓動。
