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ドキュメント・ホタル出産

長い一日であった。

「お印」
3/3 7:40a.m.
兄は、落ち着かない様子のホタルを、トイレのためベランダへ。
その際、丸っこいものが出ているのが確認できる。
「生まれてる?」
二人でドタバタ、ホタルに近寄るが、直径4〜5cmの水風船であった。
俗に言う、「お印」だ。

赤茶色の液体の入った、水風船。
ホタルはそれを自分で処理。
『もしかして、青空出産?』兄が言う。

一旦ホタルを産室に戻そうとするが
ホタルは絶対動きません風体で拒む。
関節全部で移動を拒否する。
二人掛かりで、えっちらおっちらホタルを産室へ。
産室に戻ると、ホタルは不安を感じさせないスッキリした顔で、元気に動き回る。
これまでの不安な顔とは、えらい違いだ。

兄とベランダを清掃していると
さっきとは違う軽やかな足取りで、ホタルは産室を抜け出して来た。
狭い産室より、自由に動ける所の方が良いみたいだ。
兄は、ベランダ出産を決める。
機材、処置用具を速攻で大移動。
母も二階廊下にスタンバイ。

ホタルの体中が細かく振るえ、陣痛が始まる。
敷物を鼻先で寄せては広げる、巣作り行為の回数も増えた。
第一子が生まれてから仕事に出るつもりでいた兄だったが
なかなか生まれず、時間がただ過ぎて行く。
ボスから催促が入った事もあり
「後ろ髪引かれる思いだ。頼んだよ。」と言い残し、仕事に出掛ける。

責任がのしかかる。
私の望む交配ではなかったが、これもまた命。大切な命。
信念、云々言ってる場合ではない。
確実に繋げるのだ。それが、今、私にできる事。


「第一子」
ホタルと一緒にベランダを歩き回って、出産を促す。
陣痛による、躯の震えが激しくなる
首・背中・腰・腿・後足を撫で、促す。
私が近くにいると、ホタルに甘えが出てしまうのか
気張りが足りない。

少し離れてみる事にする。
自発的に息むホタル。
ガラス越しに「気張れ!ホタル!」と声を掛け、私も気張って見せる。
彼女は、私と目をしっかりと合わせて、そして応えている。
数度息んだところで、子犬の一部が出てきた事を確認。
直ぐに近付かず、頃合いを見計らって処置に向かう。

子犬の後足が確認できた。逆子だ。
「気張れホタル!」と声を掛け
タイミングを合わせながら、子犬の後足を持ち、少しずつ引き出す。
子犬の躯が全部出た時に、ホタルは違和感を感じたらしい。凄い反応をした。
だが、直ぐにホタルは子犬を確認し、小さな躯を舐める。
私は子犬の羊膜を手で破り取除き、タオルで躯中を撫で拭き
子犬の顔をホタルに舐めさせる。
ももがホタル達を出産した時の事を、思い出していた。

子犬の鼻から、小さな泡が次々と、プクプク出て来る。
呼吸は有るが、鳴き声が聞こえない。
更にホタルに子犬の顔を舐めさせる。
(生まれたてのゴールデン、こんなに白かったか?)
肉球が青みがかっている
(これってチアノーゼじゃないよな?)
嗚呼、不安だ不安だ。
次から次へと不安が押し寄せる。
元気な声を聞くまで安心できない。

躯を撫で拭きつつ、ホタルに舐めさせつつ
(鳴いて!元気な声を聞かせて!)と懇願していた
『ニャァ!』と声を聞いた時、心からホッとしたのを覚えている
9:46青空の下、第一子誕生。

次の手順、次の手順・・・・
テンパリテンパリ。
一通り聞いてあった手順のメモを、母に読み上げてもらう
次はへその緒の処理。
一旦屋内に戻り、用意してあった木綿紐でへその緒を結び、鋏でカット。
性別確認。男の子

処置中聞こえる鳴き声は細く、水っぽいグジュグジュ音を含んでいる
羊水が出きっていない?
それを吸い上げる為のチューブとか、用具等用意していない。
私は決断する。
口で子犬の鼻と口を覆い、数度軽く吸う。
少量の羊水が出てきた。
鳴き声も大きく強くなった。
ホッとする。
本当は衛生的に良く無い事なのかもしれない。
でもそれしか思い付かなかった。
(「振る」行為は教わっていなかった)

次は産湯。再度ベランダへ。
ホタルが「子犬の世話をさせろ」と、べったりくっ付いて来る
ジャグから盥にお湯を張り、躯をつけ、静かに洗い流す。
タオルドライして更に血行促進。
体重470g
兄から指示されていた、第一子のリボンは赤。
赤いリボンをハーネス状に緩く結わえ、スチロール製の産箱へ。

使ったタオルの洗濯をしていると
ホタルが寄って来る。水を飲みたい様だ。
急に出産場所を変更したから、支度を忘れた。
器に水を注ぐと、ジャプジャプ音をあげながら豪快に飲む。
少し落ち着いたかな?

次の子の出産を待つ間に
兄へ報告のメールを打ち始めた所へ
外回りから兄が戻る。
第一子誕生を告げ、初顔合わせ。喜びの瞬間。
ニャニャニャキュ〜と、テルミンの様な音で鳴く第一子。
よく動き、元気だ。

暫く様子を見た後、兄は再び仕事に戻る。

「第二子」

陣痛の小刻みな震えが、ホタルの躯に表れている。
しかし、気張り息みは見られるが、なかなか第二子出産に至らない。
ベランダに出ては、撫でたり一緒に歩いたり
屋内に戻り、気張れ息めとガラス越しに伝えたり。
赤リボンの第一子に初乳を与え、次の出産を促す。
その最中も、ホタルは息むのだが・・・。
mg1.jpg

何度となく、一緒に歩いたり、軽く小走りさせたり、躯を撫でたりしたのだが
もう一踏ん張りが効かない。
兄もマメに様子を見に来る。

屋外の日差しは暖かいのだが、風が冷たい。
昼を過ぎ、焦りが出て来る。
「寒くなってしまうよ、ホタル。」

そうこうしている内にMissT来宅。
ベランダに日陰部分が増えてきた為、ホタルを産室内へ移動。
私は機材等を移動、MissTは産室内でホタルに出産を促す。

息みの割に生まれず、出血を伴い始めたことから
掛かり付けの動物病院に電話を入れ、指導を仰ぐ。
暫く様子を見る予定でいたが
第一子出産後から経過時間が長い事を考慮し、病院行き決定。
慌ただしく支度をして、おチビも連れて病院へ。

片手で産箱を抱え、もう一方の手でホタルを支えつつ、病院へ向かう。
病院への中間点辺り
強目のブレーキが掛かったポイントで、ホタルはグッと踏ん張った。
直ぐさま下腹部を気にしたホタルの様子に
(今の踏ん張りもしかして?)の思いがした私は
ホタルの下腹部に手をあてた。

プルリとした湿った感触。
これは羊膜に包まれた子犬。

「出てる!」と私は緊急を告げる。
路肩に車を止めてもらい、指示を仰ぎながら処置をする。
また逆子だ。まだ躯がすべて出ていない。

ホタルに息ませつつ引き出すが、子犬の後足に力が無い。
何かが引っ掛かっている感触で、なかなか引き出せない。

やっと引き出すと、胎盤ががっちりと前半身に絡み付いていた。
手で引き千切ろうとするが、思いのほか強く絡み付いている。

やっとの思いで胎盤を取除くが
これまでに触った事のある生まれたての子犬や、先程取上げた第一子と
その感触が明らかに違う。
不安が一気に押し寄せる。
私はタオルで子犬を撫で拭き
ホタルは子犬の顔を舐めるが、子犬はピクリとも動かない
病院からの指示を仰ぎつつ、車は再び動き出す
14:15

狭い車内、少しずつ窓を開けてはいたが
出産につきもののにおいが充満する

子犬の口を開くと、チアノーゼが見られる。
(駄目なのか?駄目なのか!)

ホタルは、子犬を舐める事を早々に止めた。
「ホタル、諦めたのか?私は諦めてないぞ!」
(諦めるもんか、諦めるもんか)
懸命にタオルで全身を撫で続け、一縷の望みにかける。
しかし同時に、張りの無い子犬の躯に、胸が潰れてしまいそうだった。
今にも泣いてしまいそうな気持ちを、必死に抑えた。
泣いても始まらん。諦めないぞ、絶対に。

腕の中の子犬に集中している私は、病院までの道順を知らない。
MissTは運転に焦りが出てきている。
下を向いて、右に左にユサユサ揺られているうちに
色んな原因の酔いを、胃の辺りに感じはじめる。

「酔ってきたよ。落ち着いて。事故をしたら何にもならないから」と告げる。
落ち着いて。これは自分にも言い聞かせていたのかもしれない。

「第三子」

病院に着き、子犬をMissTに委ね、ホタルと第一子を連れ院内へ。
第一子も病院側へ預け
カウンター越しに看護士さん達に経緯を説明している最中
ホタルは気張り始める。

え、マジで?お前、今?ココで?
あっと言う間もなく、グッと力むホタル。

スライディングキャッチする様に、慌てて子犬を受け取る体勢に。
また後足から出てきている。逆子だ。
出かかる子犬を両手に受けつつ、もう一踏ん張りを待つ。

ホタルがグッと大きく踏ん張ると
小さな躯が回転しながら、プルリと出てきた。
顔が出ると同時に、大きく「ニャァ!」と鳴き
第三子は元気に生まれ出てきた。
羊膜を取除き、ホタルに顔を舐めさせてから
子犬を看護士さんに預ける。
14:30

嗚呼、なんてドタバタのお産なんだ。
ホタルよ。お前らしいぞ。
決して褒めてはいないが、きっと記憶に鮮明に残るだろう。

処置室から、元気な子犬の声が響いて来る。
ふと見れば
病院ロビーは、ホタルの羊水やら血液でとんでもない事になっている。
立派な尻尾を揺らして歩くゴールデン。
飛沫が壁の彼方此方にまで飛び散っている。
レントゲン撮影の為、ホタルを預けた後
備え付けのペーパータオルを使い、MissTと私でロビーを掃除をする。
用意して頂いた消毒スプレー(?)とタオルを使い、MissTが床を拭きあげて行く。

「回想」
私は、第二子の胎盤の色が両腕に残るまま
ベンチに腰を降ろし、早朝のMissTとの会話を思い返していた。

夕刻までに出産が始まらなかったら、病院へ行って帝王切開かも』と
MissTから告げられていた。
私は(そんな、帝王切開なんてぇ。大袈裟な・・・)と思っていた。
できれば自然分娩が望ましいから。
ホタルは、できるはずだと思っていたから。
そうあって欲しいと願っていたから。

出産態勢を取って二日。
皆、仕事を抱えながらずっと待ち続けていた。
ホタルも皆も、落ち着いて眠る事が出来ずにいた。
平日昼間の出産ともなれば、誰が子犬達を取り上げるのだ?
オーナーである兄は、気が気じゃないだろう。
各々の為にも「どうか今日!」との思いが強かった。

任せて!私は、今日、覚悟決めてるから。
机仕事は、粗方片付けた。仮眠も取った。
外回りに行く予定ではあったが、返上する。
今はこっちの方が大事。

そう覚悟を決めて挑んで来たが、こんな事態は予測していなかった。
至らなさを感じ、命に関わるとは大事(おおごと)なのだと改めて思い知る。

今日「病院に行こう」と言ってくれなければ
そのきっかけが無ければ
違う結果になっていたかもしれない。
あのまま私一人で自宅出産を待っていたら、的確な判断はできなかっただろう。
MissTに謝辞を伝える。

私はまた、犬に教わる。
出産は、母と子の連係プレーなのだと。
生み出そうとする力、生まれ出ようとする力。
双方が協調し合って、はじめてなせる技なのだ。
一方だけでは、成り立たない。

そう。ホタルは懸命に生み出そうとしていた。
きっと、第二子も応えていただろう。
残念な結果であろうとも
続く第三子の誕生には必要な事だったのだ。
とんでもなく元気な産声が、ソレを物語る。

光と影。

私はダニーを思った。
彼を送って間もなく、あまり乗り気では無かったホタルの交配。
むしろ反対だ。
でも、今、どう言う訳かホタルの出産介添えをしている私。
自分が望む望まぬ以前に
「宿った命は繋ぎ、育まなければ」の思いが、私を突き動かしている。
それが私の信念の側面でも有る。

短い期間の生と死。
なんとドラマティックな展開だろう。
まるでジェットコースターに乗っている様だ。

「選択」

腕を洗い流して戻ると
ホタルと獣医さん達が、ロビーにいる。
これからレントゲン撮影をする旨を、獣医さんから説明される。
処置室へ入るのを拒むホタル。躯中で「嫌!」と拒否している。
「関節、何処も動かさないワ」と非協力的だ。
ホタルのこの姿勢を見るのは、今日何度目だろう?
不安なんだろうな。
「大丈夫だよ」とホタルを安心させつつ
私も一緒に処置室へ向かい、獣医さんに預ける。

処置室で、子犬達の元気な声を聞きながら
時間外にも関わらず処置をして下さっている看護士さん達から
第二子の話を聞く。
懸命に蘇生処置を施して下さったそうが
残念な結果となった。

ロビーに戻り、再び床を清掃。
レントゲン結果が出る。
あと一頭。正常な体勢だ。
心音もしっかり聞こえると言う。
このまま何もしなくても、無事に生まれるだろうとの説明。
ただ、まだ少し距離が有る(高い位置に居る)ので
出産までに時間が掛かるかもしれないとの事だ。

帰宅するか?病院に預けるか?
できれば、ホタルが安心して出産できる環境が望ましい。
「戻ります」私は答える。
次に分娩誘発剤(?)の使用を問われる。

薬・・・・・。
安全なものであっても、薬を使用すると考えたら、瞬時に躊躇う私がいた。
できれば自然なカタチで生まれて欲しい。
迷っていた。
だが、選択せねばならない。
私はその時
「今、自分に犬達の命が託されている」事を再自認していた。

テンパリ頭で考える。
(次の出産まで、時間が掛かるかもしれない)
(獣医士が薬の使用を問う、と言う事は・・・。)
冷静に、冷静に。落ち着け落ち着け。
(時間が空くと、出産の感覚が鈍る事も考えられるな。)
第二子の事が脳裏を過る
間を置かず出産した方が、ホタルの負担も軽いであろう。
「お願いします」
私は誘発剤の使用を決断する。
兄よ、これで良いのだな。

胎児の絶対数を確認するため
高い位置のレントゲン撮影もお願いする。

目紛しい一日だ。
MissTは、食事をしていないそうで『貧血きたかも〜』とベンチに座る。

同じく普段不規則な食生活の私が
「どう言う状況でも、ちゃんと食べなきゃ駄目だよ」と言うと
『アナタに言われてしまった』とツッコミ返しをされる。
ゲヘッ。
「そうさ。その私に言われる位だから、相当だよ」と
ツッコミ返しに、ツッコミをする。
嗚呼、もう二人でわけ解らん事言い始めてる。

看護士さんが第三子を連れてやって来る。
元気な男の子だ。
「あの・・・第二子はどちらでしたか?」と聞くと
処置室に舞い戻り、直ぐに『男の子でした』との報告。
看護士さんは何処か残念そうに、私達を気遣っているのが解る。
しかし当の私達は「おおおぉ〜!」と、二人で驚きの声をあげていた。
男児の多さに驚いたのだ。第四子はどちらだろう?
第二子の旅立ちは残念ではあったが、私達は、既に気持ちを切り替えていた。
無念を、確実に希望へと繋げなければならない。

レントゲン撮影を待つ間に、自宅へ連絡を入れ
状況報告と、今後の予定を告げる。

院内に戻り、紙箱に入った第二子を受け取る。
何処までも丁寧な心配りが、嬉しかった。
皆で一緒に帰ろうね。

高い位置のレントゲン写真が出来上がる。
ホタルの体内に残る胎児は、やはり一頭だ。
元気な子犬達が戻って来る。
箱入り息子達だ。
ホタルも処置室からロビーに戻って来る。
誘発剤を注射。
清算を済ませ、心から礼を申し上げ、病院を後にする。

二人と四頭。
帰路は賑やか。

「第四子」

箱の中の保温材に身を寄せる子犬達。
元気に鳴き、よく動く。
生後間も無いと言うのに
狭い所に鼻先を突っ込む、お馴染みのゴールデンの仕草をしている。
微笑ましい光景だ。

行きとは違う、ゆったりとした雰囲気で、車は家に向かう。
MissTは、私の酔いを気遣うあまり
(後続車が戸惑って居るだろうな)と思う位の、安全運転。
さっきとは状況が違うから、大丈夫だよ。
心の余裕が違う。廻りもしっかり見えている。
無事に家に着いたら、ホタルも安心して出産できるだろう。
家に着いたら、諸々の処置をして
アレやってコレやって、それからそれから・・・・。

と思っていたのだ。
しかし、ホタルは・・・。
そう、ホタルはどこまでもホタルなのである。

車中でホタルがグッと息んだのが、支える私の片腕に伝わる。
すかさず下腹部に顔を寄せるホタル。
私も急ぎ、手をホタルの下腹部にあてると、やっぱり!
キタキタキタキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
また車中出産ですか。ホタルさん!

「気張れ、息め!ホタル!」
15:18プルリと第四子、正常な体勢で出産。
ホタルは、生まれたばかりの子犬を懸命に舐める。
私は羊膜を破り、タオルで撫で拭く。
息は確認できるが、鳴き声が聞こえない。
子犬の躯を静かに振るが、狭い車内、うまく出来ない。
一旦車を停め、MissTにバトンタッチ。
MissTは車外に出ると、子犬を静かに振る。
『男の子みたいだよ。でももう一回確認して。』と車内に戻るMissT。
子犬を受け取ると、再び車は動き出す。
タオルで子犬の躯を拭きつつ、ホタルに顔を舐め続けさせる。
ホタルが子犬の耳の辺りを甘噛みした様だ。
「ニャァ!」と、元気な産声が車内に響く。
人間二人も「やった」『やった!』と大喜び。
少し落ち着いた所で、性別を確認する。

:-)ラヴリー!

私は一瞬息を飲んだ。
直ぐに声が出ず、そして自分の口角が上がっているのが解った。
「女の子!」
『やったー!!!』
姫様の誕生に、車内は一層賑やかに、華やかになった。

嗚呼、ホタル。
お前ってヤツは、お前ってヤツは。
これでもか、これでもかと、ドタバタを提供してくれるヤツ。
お腹いっぱいだよ。
「でかした、よく頑張った、ホタル。」と撫でまくった。

無事帰宅し
MissTはホタルを、私はおチビ達を連れイソイソと家に入る。
自分の足取りが軽いのが解る。
口元が自然と緩んでいるのが解る。歌い出しそうな気分だ。

玄関には兄と母。
自分では口元だけだと思っていたが、私は顔中体中で笑っていたらしい。
母から「凄いニヤけてる!」と突っ込まれる。
そうさ、私は今、凄く嬉しい。
この数カ月の間に色々乗り越えて
そして今また、命の逞しさ、儚さを、体中で感じているんだ。
この小さな輝きを、明日へ繋げて行くんだ。


ホタルの足を拭く人、子犬を運ぶ人、子犬の産湯を用意する人。
各々で、家中をドタバタする。

兄にドタバタ出産の経緯を報告しつつ、第四子を産湯に。
へその緒の処理をして、タオルドライ。
ホタル産室に母子がおさまり
チュパチュパ授乳の音を聴き、やっとホッとする。

mg2.jpg

「別れ」

紙箱に横たわる第二子を、兄が確認する。
よく見ると、それはただの紙箱ではなく、紙製の立派な棺であった。
綺麗な掛け紙が子犬の躯に掛かり、傍らに線香も用意されていた。
窓もついている。
今さらながら、動物病院スタッフの心遣いに頭が下がる。

棺に綺麗な躯で横たわる第二子。顔も穏やかだ。
躯を静かに撫でると、既に硬直が始まっていた。
取上げた際の柔らかい感触を思い出し、その変化の早さに愕然とする。
何故か(ダニー!)と思った。
ダニーを失った時の事を思い出し、一瞬胸を突かれたが
哀しみに襲われたのではない。
(ダニー、この子を頼んだぞ!)との思いが強かった。

「始まり」

子犬の体重を計測する。
第二子雄450g
第三子雄490g
第四子雌390g

小さめホタルの、小さめの子犬達。
相応に生むのだな。
予想頭数の約半分。
お乳争奪戦にはならないだろうから、鱈腹飲めるぞ。
皆、大きく育つ事だろう。

ホタルは慣れないながら、甲斐甲斐しく子犬の世話をしている。
母性本能の引き出しは、しっかりと開いた様だ。
凄いな、頑張ったな。ホタル。
子犬達はにおいを頼りに、おぼつかない足取りで母を探しあて、身を寄せる。
子犬にもまた、生きる本能が備わっている。
感心してホタル母子を眺める。

なんともホタルらしい、ドタバタの出産であった。
これからが本当の始まり・・・。
mg3.jpg[長男]
mg4.jpg[三男]
mg5.jpg[長男:長女]

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2006年03月03日 23:17に投稿されたエントリーのページです。

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